日本を代表するレザーウェアの雄、KUSHITANI前史「櫛谷商店」の時代。

静岡県浜松市の櫛谷商店への一本の電話が、歴史を変えた。

戦後間もない昭和22年、革製品を製造し販売する夫婦二人の店舗として櫛谷商店は創業した。レザーの特性を深く理解した櫛谷商店が生み出す商品のクオリティは口コミでじわじわとファンを拡げてゆき、静岡県内で革製品を求める者にとって信頼のお店となっていった。

こうして革製品の製造・販売が軌道に乗り始めた頃、一本の電話が入った。

曰く、オートバイのレーサーが乗るワンピースの革ツナギの特注依頼である。それも戦後の復興期から日本経済を支えてきオートバイメーカー、同じ静岡県の本拠地を置くスズキからの依頼だったのである。確かにこれまでも革ジャケットをオートバイのライダーが着るということはあったが、完全にオートバイ向けの革製品、しかもツナギとなると櫛谷商店としても初めてのことである。

ライダーを守るアイテムは最高の技術を持つという評判の櫛谷商店に作って欲しいというスズキ側の熱い想いもあり、ついに櫛谷商店はレザースーツの製造に挑むこととなる。時に昭和28年のことであった。

ライダーの想いを受け止める、KUSHITANIの原点はここにある。

現在で言うところのレーシングスーツ、当時はもっぱら革ツナギと呼ばれていた革のワンピースを作るにあたり、クシタニはまず革ツナギに求められる要件を知るべくライダーやメカニック、メーカーに対して徹底的なヒアリングを行なったという。何しろ初めての分野である、たとえテストサンプルであっても製品を形にする前に革ツナギに対し求められるものが何であるかを知らなければ手をつけることすらままならない。とりあえず形にするのは簡単なことではあるが、クシタニは敢えてその道を通らなかった。

ライダーの求めるものを、作る。ライダーの声に耳を傾ける。

現在も貫かれているクシタニの大切なコンセプトはレーシングスーツ、いや、革ツナギの第一号を手がける際に既に確立していたのである。

試行錯誤を重ね、昭和30年についにオリジナルレザースーツが完成する。そのお披露目の場は、日本ロードレース史上に燦然と輝く、かの第1回浅間高原レースであった。

櫛谷商店から片仮名のクシタニ、そしてKUSHITANIへ。

日本でオートバイのレースが社会の前面へと一躍飛び出した歴史的なイベント、第1回浅間高原レースに参戦した3名のライダーにクシタニは革ツナギを供給した。そしてライダー、チーム、メカニックから着やすさ、安全性、ライダーの望みを形にしてくれる、というフィードバックが上がってきたという。

当時も現在もレースの畑は小さい、その狭い世界で口コミが広がり、ライダー達からのオーダーが次々と舞い込むことになっていった。

かくしてクシタニは日本における革ツナギ、レーシングスーツの第一人者へと成長していったのだ。

日本のレースがサーキットを使ったロードレースとなり、全日本選手権が開催されてゆくにつれクシタニのブランド名はレース界や好事家の枠を超え、一般ライダーの間にも浸透していった。そして全日本選手権となれば国内メーカーのワークスが凌ぎを削る舞台であり、同時に彼らは世界を舞台にして戦うメンバーであった。

世界GPへの進出、クシタニはかくしてKUSHITANIとなり世界へ羽ばたいたのだ。

→ Vol.02「世界の名だたるライダーから、国内のアマチュアまで。」を読む

→ Vol.03「クシタニもうひとつの伝統「K」を知る。」を読む

浜松から見た富士山はクシタニのトレードマーク。西から見た富士山独特の形をしていることにお気づきだろうか。▲浜松から見た富士山はクシタニのトレードマーク。西から見た富士山独特の形をしていることにお気づきだろうか。

高品質な革製品を送り出す原動力、職人の技と、使い込まれたミシン。レザースーツは現在も過去も職人技の集大成。▲高品質な革製品を送り出す原動力、職人の技と、使い込まれたミシン。レザースーツは現在も過去も職人技の集大成。

クシタニは21世紀の現在に於いても革のスペシャリスト。スーツのみならずグローブ、そして新製品のレザーのツーリングブーツまで職人技が光るブランドだ。▲クシタニは21世紀の現在に於いても革のスペシャリスト。スーツのみならずグローブ、そして新製品のレザーのツーリングブーツまで職人技が光るブランドだ。

旗艦店でもある東京・世田谷の店舗にはクシタニのレーシングラインからカジュアルラインまでほぼ全ての商品を手にとって見ることが可能。そのラインナップには圧倒される。▲旗艦店でもある東京・世田谷の店舗にはクシタニのレーシングラインからカジュアルラインまでほぼ全ての商品を手にとって見ることが可能。そのラインナップには圧倒される。

取材:「GOGGLE」編集部

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